「還元率80%」「業界最高水準の還元率」。SESの求人で毎日のように見る言葉です。
前回の記事で「分母に何が入っているか書いていない数字に意味はない」と書きました。今回はその続きです。IT人材業界の中で、この数字がどう使われているのかを全部書きます。
結論を先に言うと、還元率は「率」で見た瞬間に判断を誤ります。見るべきは額です。そしてもう一つ、還元率を聞いたときに返ってくる答えには、業界共通のパターンがあります。
まず分母。基本は「単価そのもの」だが、確認する価値はある
還元率の計算式はシンプルです。
還元率 = あなたに還元される額 ÷ 分母
問題はこの分母です。中の人の実感としては、基本的には単価そのものを分母にしている会社が多いと思います。ただ、こういうパターンも存在します。
- 単価そのものが分母(多数派。数字がそのまま読める)
- 単価から社会保険の会社負担分や一般管理費を引いてから計算(同じ手取りでも還元率の数字は大きく見える)
だから「還元率の分母は何ですか」は聞いていい質問です。ここを明確に答えられない会社は、その時点で一つ情報をくれています。
【本題①】同じ「80%」でも、単価が上がるほど会社の取り分は増える
ここが一番伝えたいところです。具体的な数字で見てください。
- 単価50万 × 還元率80% → あなた40万 / 会社10万
- 単価100万 × 還元率80% → あなた80万 / 会社20万
還元率は同じ「80%」でも、会社の取り分は10万から20万へ、2倍になっています。
では、会社があなたに提供している価値(営業、契約管理、労務)は、2倍になっているでしょうか。なっていません。単価100万の人の契約手続きが、単価50万の人の2倍大変なわけではないからです。
つまりこういうことです。
- 単価が低めのうちは、高還元率は素直にありがたい。千円単位で手取りが変わる
- ハイレイヤーになるほど、「率」ではなく「額」で考えるべき。同じ率でも、取られている絶対額はどんどん大きくなる
単価が100万を超えてくる層になったら、還元率の数字を追うよりも、「自分のケースで会社がいくら取っているのか」を額で把握し、その額に見合うサービスを受けているかで判断する方が健全です。
【本題②】中の人の告白。還元率を聞くと「10〜15%」と幅で返ってくる理由
これはあまり語られていない話です。
まず前提として、還元率を公表していない会社でも、聞けばざっくり教えてくれるところは多いです。「聞いたら失礼かも」と黙っているのは損なので、普通に聞いてください。
ただし、そのときの答え方にはほぼ共通の型があります。「うちは大体10〜15%ですね」のように、必ず幅を持たせて返してきます。
白状しますが、私自身がエージェント側にいたときも、同じように答えていました。
これは必ずしも嘘ではありません。実際にマージンは案件・時期・商流で変動するからです。ただ、聞く側が知っておくべきことがあります。
- 幅で答えるのは、後で上限側を適用しても「説明済み」にできるから
- あなたのケースが下限側になるとは限らない
だから聞き方を変えてください。「御社の還元率は何%ですか」ではなく、「この案件だと、私のケースでは何%になりますか」と個別具体に寄せる。これだけで回答の精度が変わります。
高還元の裏側にあるトレードオフ
還元率を上げるということは、会社の取り分を削るということです。その分、どこかのコストが下がります。実感として一番出やすいのは営業のサポートです。
- 案件探しが実質「自分で探して」に近づく
- 現場でトラブルが起きたときに間に入ってくれる人がいない
- キャリアの相談相手がいない
つまり高還元は、「フリーランスに近い働き方を、正社員の看板でやる」に近づいていくということです。自分で動ける人にとっては最高の環境ですし、そうでない人にとってはしんどい環境です。良し悪しではなく、適性の問題です。
じゃあどう見分けるか。答えは身も蓋もない
ここまで読むと「じゃあ還元率をどう見ればいいのか」となると思います。中の人としての結論は、かなり身も蓋もないものです。
結局、会社規模が大きく、売上が安定して伸びている会社は、どんな謳い文句でも良い会社であることが多いです。
理屈もシンプルです。体力のある会社は、高還元を謳っても営業体制も待機保証も維持できます。逆に体力のない会社の高還元は、何かを削って捻出したものです。
だから、見るべきは還元率ではなくこちらです。
- 売上は伸びているか(採用ページの沿革や決算公告で見えることがある)
- 従業員数は増えているか(増えていないのに高還元を謳っているなら理由を聞く)
- 設立年と事業の幅(SES単一か、受託や自社サービスもあるか)
還元率は「今この瞬間の数字」ですが、会社の体力は「3年後もその数字が続くか」の根拠です。
【2026年の見立て】高還元モデルは続く。ただし勝負の軸はズレていく
ここからは中の人の生の見立てです。
「高還元SESはもう終わる」という話をよく見ますが、私はモデル自体は続くと見ています。需要があるからです。
ただ、現場でエンジニアと話していて強く感じることがあります。潜在的なニーズは、お金よりも「ウェットな関係性」の方に寄っている印象です。
- 相談できる営業がいる
- 現場で困ったときに動いてくれる
- キャリアを一緒に考えてくれる
還元率の数字競争は、いずれ横並びになります。全社が80%を謳い始めたら、その数字では差がつかない。そのときに残る強みは、むしろ関係性の側だと見ています。
だから会社選びでも、還元率が同じくらいなら「担当営業と話が通じるか」で決めていいと思います。面談のときの違和感は、入社後にそのまま拡大します。
まとめ。還元率を見るときの5つの確認
- 分母は何か(単価そのものか、控除後か)
- 自分の単価だと、会社の取り分は「額」でいくらか
- 「私のケースでは何%か」と個別に聞いたか(幅の回答で終わらせない)
- その取り分に見合うサポートがあるか(特に営業)
- 会社の売上・人数は伸びているか
還元率は、知らないと損をする数字です。でも、それだけを見て会社を選ぶと、もっと損をします。
次回は「エージェントが求人を紹介しない本当の理由」を書きます。


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